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料亭主人・骨董商。井伏鱒二の小説『珍品堂主人』のモデル。戦前、北大路魯山人と星ケ岡茶寮を営むが、喧嘩別れをして独自に目黒茶寮をつくった。戦後は千駄ヶ谷に梅茶屋を開き、青山二郎、小林秀雄、河上徹太郎、三好達治ら文士のたまり場となったが、数年で崩壊した。
《ふつう世間の人々は、贋物・真物を見分ける人を「目利き」という。それに違いはないのだが、私にいわせればそれは鑑定家で、経験さえ積めば、真贋の判定はさして難しいことではない。駆出しの学者でも、骨董屋の小僧さんでも、そのぐらいの眼は持合せている。むつかしいのは、真物の中の真物を見出すことで、それを「目利き」と呼ぶと私は思っている。「名人は危うきに遊ぶ」といわれるとおり、真物の中の真物は、時に贋物と見紛うほど危うい魅力がある。正札つきの真物より、贋物かも知れない美の方が、どれ程人をひきつけることか。しまいには、自分だけにわかればいい、「人が見たら蛙になれ」と念じているのが、日本の目利きの通有性である。
「贋物を怖れるな。贋物を買えないような人間に、骨董なんかわかるもんか」
秦さんはいつも豪語していた。私が知るだけでも、彼は古伊万里、佐野乾山、魯山人など、「贋物のあるところ、必ず秦あり」といわれる程、贋物にかかわって来たが、目が利かないから、贋物を売買したのではない、目が見えるからあえて危険を冒したのだ。》
(白洲正子『遊鬼』より)

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